Deep Research機能が研究にもたらす革新とは?
近年、生成AIモデルは急速な進化を遂げており、研究者にとって情報収集や分析のスタイルが大きく変わろうとしています。
特に2024年末から2025年にかけて、OpenAIとGoogleがそれぞれ提供を開始した「Deep Research」機能は注目に値します。
これはAIエージェントがユーザーに代わってウェブ上の情報を多段階で調査し、引用付きの詳細なレポートを自動生成してくれる画期的な機能です。
研究に必要な文献調査やデータ収集は本来多大な時間を要しますが、これらの新機能によりそのプロセスが飛躍的に効率化される可能性があります。
本記事では、OpenAIのChatGPT Deep ResearchとGoogleのGemini 1.5 Pro Deep Researchという2つの最新AIモデルの「Deep Research」機能を比較し、研究者にとってどちらがより最適な選択肢となり得るかを分析します。
特にパフォーマンス(処理速度や応答の質、複雑な問いへの対応力)と精度(科学的な正確性、情報網羅性、誤情報の少なさ)を最重要評価基準として、最新の情報に基づき科学的視点から掘り下げていきます。
比較基準の設定:パフォーマンスと精度で選ぶAIリサーチツール

まず、本比較で重視する評価基準を明確にしておきます。研究者にとってAIモデルを選ぶ際に鍵となるのは、パフォーマンスと精度です。
- パフォーマンス: ここではモデルがどれだけ迅速かつ効率的に有用な情報を引き出せるかを指します。具体的には、応答生成にかかる処理速度、回答の情報量や質、そして難解で複雑な質問に対する対応力(推論力や大量データ処理能力を含む)を評価します。研究の現場では締め切りに追われたり大量のデータを扱ったりすることが日常茶飯事ですから、AIが高速で大量の情報を捌けるか、そして複雑な課題にも食らいついていけるかは重要なポイントです。
- 精度: AIが返す情報の正確さと信頼性を指します。科学技術分野の研究者にとって、出力結果が事実に即していること、引用やエビデンスが適切であることは不可欠です。ここでは、専門分野の知識に関する科学的な正確性、回答内容の網羅性(見落としや偏りなくポイントを押さえているか)、そして誤情報の少なさに着目します。
以上の基準を念頭に、両モデルの特徴を見ていきましょう。なお、使い勝手や価格といった要素も後ほど触れますが、本記事ではあくまで研究用途における性能と精度を主軸に比較します。
ChatGPT Deep Researchの概要と特徴
ChatGPT Deep Researchとは?
ChatGPT Deep Researchは、OpenAIがChatGPTに新たに追加したエージェント機能です。
2025年2月初旬にProプラン向けで提供が開始された最新機能で、ChatGPT上で専用ボタンを押すことで起動できます。
このモードでは、OpenAIの開発中モデルが採用されており、ユーザーの質問に対して自律的に調査プランを立て、ウェブ検索から情報収集、要点の整理までを一括で行います。
最終的なアウトプットは引用付きの詳細レポートで、箇条書きや表、見出しを駆使しつつまとめられるのが特徴です。
たとえば、学術論文や市場データのPDF、画像ファイルなどをユーザーがアップロードして補足情報として与えることも可能で、これらを含めて分析・要約してくれます。
また、内蔵のPython実行環境を用いてグラフ描画や数値解析を行い、その結果グラフをレポート内に埋め込む高度な機能も備えています。
ChatGPT Deep Researchの当初の対象ユーザーは金融・科学・政策・工学など知識集約型の専門職とされており、このAIエージェントは「人間のリサーチアナリストを置き換えうる」とまで宣伝されています。
従来何時間もかかっていた調査タスクを数十分でこなせるスピードや、出典付きの信頼性ある分析レポート生成がその強みです。
価格は現状かなり高額で、月額200ドルのChatGPT Proプラン加入者のみが利用可能です。
Gemini 1.5 Pro Deep Researchの概要と特徴
Gemini 1.5 Pro Deep Researchとは?
Gemini 1.5 Pro Deep Researchは、Googleが提供する対話型AI「Gemini」における高度なリサーチモードです。2024年12月にGoogle OneのAIプレミアムプラン向けに公開されました。
Geminiチャットのモデル選択で「1.5 Pro with Deep Research」を選ぶことで利用できます。ユーザーが調べたい質問やトピックを入力すると、AIがまず調査プランを自動生成し、それをユーザーが確認・修正できます。
プラン承認後、ウェブ上の情報を多段階で収集・分析し、重要な発見のリストと出典リンクからなる総合的なレポートを作成します。
生成されたレポートはワンクリックでGoogleドキュメントにエクスポート可能であり、レポート内容をさらに編集したり共有したりする作業がスムーズに行えます。
このように、Googleの生態系(検索エンジン技術やドキュメントツール)と深く統合された“パーソナルAI調査アシスタント”として位置づけられています。
Gemini 1.5 Proの技術的特徴としては、Mixture-of-Experts (MoE)と呼ばれるアーキテクチャを採用しており、大きなモデルを効率よく動かす工夫がされています。
特に強調されているのが長大なコンテキスト処理能力で、非常に長い文書や大量のテキストデータ、さらには音声や動画、コードまでも解析可能です。
実際、Gemini Deep Researchでは「大規模なコードベースに潜むバグの発見と修正提案」や「長大な法的文書を解析して重要条項を抽出する」といった使い方が想定されています。
また、旧世代モデルと同等の出力品質をより少ない計算資源で達成している点が評価され、月額20ドル程度で利用でき、今後Google Workspaceアカウントにも展開予定とされています。
以上が両モデルの概要です。片や高性能ながら高額なChatGPT Deep Research、片や手頃な価格で幅広く使えるGemini Deep Researchという構図ですが、肝心なのはその性能と正確さが研究目的に適しているかどうかです。次章から、それらの比較に踏み込んでいきます。
パフォーマンス比較:処理速度・応答の質・柔軟な調査力を徹底解説

研究者にとって、AIのパフォーマンス=「欲しい情報をどれだけ素早く高品質に引き出せるか」は死活的に重要です。
ここでは処理速度、応答の質(情報量)、および複雑な質問への対応力に着目してChatGPT Deep ResearchとGemini Deep Researchを比較します。
1. 処理速度(応答時間)
ChatGPT Deep Researchは高性能ゆえに応答生成に時間がかかる傾向があります。一般的には1回の深層リサーチに数分から30分程度かかる場合があり、バックグラウンドで処理が進行するため、従来の対話モードと比べると待ち時間が長くなることもあります。しかし、調査内容が緻密になるという点では十分に待つ価値があるともいえます。一方、Gemini Deep Researchは数分程度で要点を整理したレポートを生成することを謳っており、実際の使用感としても比較的高速に結果が得られる印象です。ただし、非常に大きな問いや大量の情報を扱う際は、出力が途中で切れてしまうケースも報告されています。
2. 応答の質・情報量
両者とも最終アウトプットは箇条書きや段落で整理されたレポート形式ですが、その情報量と細かさには違いが見られます。ChatGPT Deep Researchは非常に詳細なレポートを生成し、ユーザーが指定したテーマについてニッチな知見まで掘り下げる傾向があります。実際、初期テスターからは「通常は見落としがちな洞察を引き出してくれる」という声もありました。一方、Gemini Deep Researchの出力は要点を簡潔に整理しており、重要事項が明確に箇条書きで示されるため、読みやすさが際立ちます。どちらも有用ですが、深掘りを求めるならChatGPT Deep Research、スピードと簡潔さを求めるならGemini Deep Researchが適しているといえるでしょう。
3. 複雑な質問への対応力
研究者が扱う問いは往々にして複雑で学際的です。この点では、AIがどれだけ柔軟に調査方針を調整し、広範な情報源を探索できるかが鍵となります。ChatGPT Deep Researchは内部で強化学習に基づくエージェントが動いており、リアルタイムの調査結果に応じて戦略を動的に調整する能力が高いです。初め漠然とした質問でも、関連する新たな疑問を次々と引き出していく点が魅力です。一方、Gemini Deep Researchは事前に立てた調査プランに基づいて情報収集するため、ユーザーが指定した観点については漏れなく調査できますが、プラン外の要素に踏み込む柔軟性はやや劣る傾向があります。
4. 大規模データ・マルチモーダル対応
現代の研究では、テキスト以外にも画像や表データ、コードなど様々な情報源を扱います。ChatGPT Deep Researchは、ユーザーがアップロードしたPDF論文や画像、スプレッドシートなどを直接解析でき、Python統合機能を活用した統計解析やグラフ生成も可能です。Gemini Deep Researchも、テキスト、画像、音声、動画、コードなどの多様な入力に対応しており、極めて大容量のコンテキストを一括で処理できるという強みがあります。ただし、Geminiの一般ユーザー向けインターフェースではファイルアップロードなどの機能は提供されていないため、情報の取り込み方法に違いが見られます。
下記の比較表は、パフォーマンス面での主な違いをまとめたものです。
性能項目 | ChatGPT Deep Research | Gemini 1.5 Pro Deep Research |
処理速度 | 数分〜30分程度で詳細レポート生成。従来のチャットよりは遅いが、深い分析が可能。 | 数分で要点レポートを生成。高速だが、長大な出力時に途切れる場合もある。 |
調査アプローチ | 動的な調査戦略でリアルタイムに方針変更。未知の問いへの柔軟性が高い。 | 事前プランに基づいた調査。決められたステップで網羅的に進行。 |
情報量・詳細さ | 非常に詳細なレポートで、ニッチな知見まで掘り下げる。 | 要点を簡潔に整理したレポート。読みやすさ重視で深掘りは控えめ。 |
マルチモーダル対応 | テキスト、PDF、画像、表データなどを直接解析し、データ分析も可能。 | テキスト、画像、音声、動画、コードを理解し、膨大な文脈を一括処理。 |
出力形式・連携 | 箇条書き・表・見出し付きのレポートを生成(主にChatGPT内で利用)。 | 箇条書き中心の要点レポート。Googleドキュメントにワンクリックでエクスポート可能。 |
精度比較:科学的正確性と情報網羅性で見るDeep Researchの信頼性

次に、両モデルの回答の正確さと信頼性を比較します。研究者にとって、生成された情報に誤りが含まれるリスクは非常に大きいため、以下の点に着目しました。
1. 科学的な正確性と知識の信頼度
ChatGPT Deep Researchは最新のウェブ情報を収集してレポートを作成しますが、稀に誤った情報を含む可能性があるため、最終的な確認はユーザー側で行う必要があります。たとえば、存在しない論文や出典を捏造してしまうリスクを完全には排除できません。一方、Gemini Deep Researchも提示された出典リンクを通じて情報の検証ができる仕組みとなっており、信頼性の高い情報をまとめる努力がなされています。ただし、どちらのモデルも、出力内容の検証は最終的に研究者自身の責任となります。
2. 情報の網羅性
ChatGPT Deep Researchは動的な調査戦略により、質問の範囲を広くカバーし、関連する情報を幅広く収集する傾向があります。その結果、非常に網羅的なレポートが生成されますが、情報が冗長になりすぎる場合もあります。Gemini Deep Researchは事前プランに基づくため、ユーザーが指定したサブトピックについては漏れなく調査される一方、知らなかった重要な視点が抜ける可能性もあります。いずれにせよ、網羅性だけでなく、取捨選択が重要です。
3. 誤情報・ハルシネーションのリスク
両モデルとも、いわゆる「ハルシネーション」のリスクは存在します。ChatGPT Deep Researchは、情報源を引用することで誤情報の発生をある程度抑制していますが、依然として誤った解釈や不整合が混じる可能性があります。Gemini Deep Researchも同様に、参照した情報自体の正確性に依存するため、出力内容をそのまま鵜呑みにすることは避ける必要があります。どちらの場合も、最終的な誤情報チェックはユーザーの責任で行うべきです。
実践事例と応用シナリオ:文献調査から実験データ解析まで
理系研究者がこれらのツールを具体的にどのように活用できるか、いくつかの応用例を挙げます。
- 文献調査・関連研究のレビュー
新しい研究プロジェクトの背景調査において、ChatGPT Deep Researchを使えば主要な論文や理論の包括的なレポートが得られます。一方、Gemini Deep Researchは、短時間で当該分野のトレンドやキーパーソンの発言、関連する業界動向など幅広い情報を素早く収集するのに適しています。得られたレポートはそのまま編集・補完することで、効率的なレビュー論文の下書き作成に役立ちます。 - 実験データ分析・図表作成
ChatGPT Deep Researchは、実験データのCSVやExcelファイルをアップロードすることで、Pythonによる統計解析やグラフ生成を行い、その結果をレポートに反映させることができます。研究者はデータ分析の負担を軽減し、結果の解釈に集中できるでしょう。一方、Gemini Deep Researchは、長文の実験記録や観測ノートから重要なパターンや結果を抽出して要約する用途に向いています。 - 異分野横断的な調査
学際的研究では複数分野の知識が必要です。例えば「遺伝子治療の技術動向」を調べる際、Gemini Deep Researchは各分野ごとの主要な知見をバランスよく整理するレポートを生成できます。ChatGPT Deep Researchも、関連企業の動向や社会受容性など、追加的な視点を盛り込んだ深掘りが期待できます。両モデルを補完的に活用することで、広く深い調査が可能になるでしょう。 - 研究計画書・提案書の下調べ
新規研究のアイデアを申請書にまとめる前に、既存研究の重複確認や市場動向の把握に利用できます。ChatGPT Deep Researchなら、キーワードを入力することで関連する理論や未解決の課題のレポートを生成し、計画書のブラッシュアップに役立ちます。Gemini Deep Researchは、技術トレンドや特許情報、競合他社の動向なども含めた包括的な下調べが短時間で可能です。
結論とおすすめ:研究目的に最適なDeep Researchツールはどちらか?

ChatGPT Deep ResearchとGemini 1.5 Pro Deep Researchは、いずれも研究者のリサーチ業務を強力にサポートする次世代AIツールです。しかし、そのアプローチや強みの違いから、用途に応じた使い分けが求められます。
- 徹底した深掘り分析が必要な場合はChatGPT Deep Research
漠然とした質問や未知の要素が多いテーマでは、動的な調査機能が有効です。詳細で豊富なレポートを生成でき、アップロードした実験データの解析やグラフ作成も可能です。ただし、利用コストや処理時間、現状での提供範囲などには留意が必要です。 - スピード重視で幅広い情報収集を行いたい場合はGemini Deep Research
短時間での情報収集や、Googleドキュメントとの連携による手軽なレポート作成に向いています。価格面も手頃であり、特に学生や若手研究者が初期調査として利用するのに適しています。ただし、出力内容の精査や深掘りは必要に応じて補完する必要があります。 - 精度管理はユーザー自身の責任
どちらのモデルも、出力された情報をそのまま鵜呑みにするのではなく、必ず出典を確認し、研究者自身が最終的な判断を下すことが重要です。
最終的には、どちらのツールも日進月歩で進化しており、今後のアップデートでその差はさらに変化していくでしょう。現時点では、各モデルの強みを活かし、プロジェクトのニーズに合わせた使い分けが最も効果的です。AIツールを上手に相棒として取り入れることで、研究のスピードと深さを両立させ、新たな発見への道が切り拓かれることを期待します。